ドイツのマスター・ヴァイオリン

Aegidius Klotz
Mittenwald, c.1780
クロッツに限らず、シュタイナー・モデルの楽器に共通する注意点は、この個体のように、出来る限りイタリアン・アーチに近いものを選択することである。アーチの良し悪しで結果はまったく異なる。
Jan Kulík
Prague, 1867
楽器の本質を見抜く眼力があれば、ディーラー、プレイヤー問わず、大いに魅力を感じるに相違ない楽器。様々な要因でジャーマン・スクールのこの手の楽器がマーケットに流通することは稀である。

このページでご説明するドイツのマスター・ヴァイオリン※用語とは、現在のオーストリア、チェコ、スロヴァキアを含む、ヴァイオリン製作における近接文化圏を指すこととします。何故なら、これらの地方ではヴァイオリン製作技法の起源が共通であり、伝達と交流を繰り返しながらヴァイオリン製作が発展した歴史的背景があるからです。

  • ドイツおよび周辺諸国について、複数言語の通名がある地名・地方名は英語表記に統一します。

ドイツにおけるヴァイオリン製作の起源は、Brescia から製作技法が伝わったと考えられているドイツの Füssen と、Cremona から製作技法が伝わったとも考えられているオーストリアの Absam (Tyrol地方)の2都市にあります。特に Absam でのヴァイオリン製作の始祖である Jacob Stainer (1617-1683)は特筆すべきマスター・メーカー※用語で、かのモーツァルトによって愛用されるなど、18世紀末頃までは時に A.Stradivari を凌駕する程の人気を誇りました。ですから、当時のドイツのメーカー※用語達の多くは好んで Stainerモデル※用語を製作しましたし、オールド・イタリアンの中にも、Romaスクール※用語やFirenzeスクールなど、J.Stainerの影響を受けたと考えられるものが存在します。

  • J.Stainerを筆頭とするいわゆる Tyrolスクールの楽器は、演奏様式の変化などに伴い、19世紀以降は次第に Cremonaスクールほどの評価は受けなくなりましたが、用途によっては素晴らしい性能を発揮できることに変わりはありません。

ドイツの代表的なスクールは、Stainerモデルの代表格である Klotzファミリーが活躍した Mittenwaldスクール、19世紀中頃から高品質な量産的マスター・ヴァイオリンを製作した Heinrich Theodor Heberlein Jr. (1843-1910)、Ernst Heinrich Roth (1877-1948)を代表とする Markneukirchenスクール(Saxony地方)、Johann Georg Hellmer (1687-1770)を筆頭とするファミリーや、Kašpar Strnad (1752-1823)、Jan Kulík (1800-1872)などを代表とする Bohemiaスクール(現在のチェコの西部・中部地方)、Füssen より移住した Martin Stoss (1778-1838)、Johann Baptist Schweitzer (1790-1865)などを代表とする Viennaスクールなどがあります。

ドイツでは群を抜いて多数の楽器が製作されましたが、マスター・ヴァイオリンと呼べるクオリティの楽器は、母体数に対してはむしろ希少である点を指摘しておきます。特にバラツキが大きいのは18世紀末頃まで製作が盛んだった Stainerモデルの楽器ですが、適切に製作された楽器については、経年によって大変上品で美しい音色となります。いわゆる「オールド楽器の練れた音」を、オールド・イタリアンより遥かに安価に手に入れられることが最大の魅力ですが、その音色は全く同質ではなく、やや線が細く音量が小さめの楽器が多いです。一方、18世紀末以降主流になった Cremonaスクールを規範とした楽器の中には、クオリティ・実用性ともに優れたものがあり、こうした楽器はモダン・イタリアンの強力な対抗馬になります。

ドイツのマスター・ヴァイオリンの中心的な価格帯は2008年現在100〜1500万円前後です。最も評価が高いメーカーは J.Stainer で、オールド・イタリアンに匹敵するような出来の良い個体は特に高価です。それ以外のメーカーは〜500万円前後となります。

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