イタリアのオールド・ヴァイオリン - 歴史・特徴・選び方・値段(販売価格相場)

ヴァイオリン製作の始祖であるアンドレア・アマティ(Andrea Amati, 1505-1578)に始まり、 ロレンツォ・ストリオーニ(Lorenzo Storioni, 1751-1802)と ジョヴァンニ・バティスタ・チェルーティ(Giovanni Battista Ceruti, 1755-1817)の世代で一旦幕を閉じる、18世紀末頃までにイタリアで製作されたオールド・ヴァイオリン(およびヴィオラ、チェロ、いわゆるオールド・イタリアン)について以下に解説します。

もくじ

オールド・イタリアンの歴史

Alessandro Gagliano
Alessandro Gagliano
Napoli, 1734
ガリアーノ・ファミリーの頂点に相応しい最高傑作で、保存状態もほぼ完全な一挺。パターンは確かにアレッサンドロだが、通常より低めのミディアム・アーチと、潤沢に残るオリジナル・ニスがいずれも極めて美しく、クレモナ・スクールとの関連を想起したくなる。
Giuseppe Guarneri del Gesù
Guarneri 'del Gesù' "Camposelice"
Cremona, 1734
音質、保存状態、外観の迫力と、非の打ち所のないグァルネリ・デル・ジェズの最高傑作のひとつ。真贋に疑いの余地のないグァルネリ・デル・ジェズは希少だが、この一挺にその考慮はまったく不要である。ルッジェーロ・リッチ(Ruggiero Ricci)、チョーリャン・リン(Cho-Liang Lin)などに愛用された名器。
Giovanni Battista Grancino
Giovanni Battista Grancino
Milano, 1719
ミラノ・スクールのオールド・イタリアンを代表するグランチーノ・ファミリー。ジョヴァンニ・バティスタは父と共に製作を行い、アマティやストラディヴァリに影響を受けたと言われる。この作品は強いて言えばアマティ風だが、アウトラインやf孔などにこのファミリー独特の強い個性が現れている。

前述の通り、アンドレア・アマティはヴァイオリン製作そのものの歴史を切り開きました。そしてその孫ニコロ・アマティ(Nicolò Amati, 1596-1684)が、グァルネリ・ファミリー(またはガルネリ, Guarneri)の始祖 アンドレア・グァルネリ(Andrea Guarneri, 1626-1698)やアントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari, 1644-1737)を始めとして、素晴らしいマスター・メーカー達を多数育てたことにより、 クレモナ(Cremona)におけるヴァイオリン製作は空前絶後の黄金期を迎えます。その後、各ファミリーや弟子達は独立して各地に移住し、それぞれの地にクレモナの製作技法を伝えます。やがて、地方ごとにスクール が形成され、イタリアのオールド・ヴァイオリンの多様性を彩るようになったのです。

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オールド・イタリアンの代表的なスクールとその特徴

この時代の代表的なスクールは、アマティやストラディヴァリを筆頭とする、芸術品のような美しさが特徴のクレモナ・スクール、ヴァイオリンのもうひとつの起源を担ったガスパロ・ベルトロッティ‘ダ・サロ’(Gasparo Bertolotti 'da Salò', 1542-1609)を筆頭とする、道具としてのこだわりが特徴のブレシア・スクール(Brescia)、グランチーノ・ファミリー(Grancino)とテスト―レ・ファミリー(Testore)を中心とする、音量面での実用性の高さが特徴のミラノ・スクール(Milano)、ガリアーノ・ファミリー(Gagliano)を中心とする、こちらも実用性が特徴のナポリ・スクール(Napoli)、サント・セラフィン(Santo Seraphin, 1650-1728)、マッテオ・ゴッフリラー(またはゴフリラー, Matteo Goffriller, 1670-1742)、ドメニコ・モンタニャーナ(またはモンタニアーナ, Domenico Montagnana, 1683-1760)というチェロの名工達が揃い踏みするヴェネツィア・スクール(Venezia)、マントヴァのピエトロ・グァルネリ(Pietro Guarneri, 1655-1720)を筆頭とする マントヴァ・スクール(Mantova)などが挙げられます。

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オールド・イタリアンの魅力

イタリアのオールド・ヴァイオリンの魅力は、その素晴らしい音色に尽きます。この時代のマスター・メーカー達にとっての基準は、アマティおよびストラディヴァリという完成し尽した楽器でしたから、製作者(またはメーカー)自身の審美眼も自ずと厳しくなり、他と一線を画す質の高い音色はもちろん、外観も美しく製作されました。古さだけが価値を高めている訳ではないので、その他の名もなきただの古い楽器とは根本的な違いがあります。最良の楽器を求めると、誰もがほぼ例外なくオールド・イタリアンに行き着くことは、どうあっても否定できません。

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オールド・イタリアンの選び方

業界に伝わる、演奏家のためのオールド・イタリアンの選び方のセオリーがあります。それは「アントニオ・ストラディヴァリが買えない時はジョヴァンニ・バティスタ・グァダニーニ(またはガダニーニ, Giovanni Battista Guadagnini, 1711-1786)を買うと良い、それが買えない時はニコロ・ガリアーノ(Nicolò Gagliano, c.1710-c.1780)を買うと良い。バルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ‘デル・ジェズ’(Bartolomeo Giuseppe Guarneri 'del Gesù', 1698-1744)が買えない時はロレンツォ・ストリオーニを買うと良い、それが買えない時はカルロ・ジュゼッペ・テスト―レ(Carlo Giuseppe Testore, c.1660-1716)を買うと良い。」というものです。これはそれぞれの製作者の特徴と販売価格相場のヒエラルキーを大雑把に表現したものと言えるでしょう。

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オールド・イタリアンの販売価格相場

イタリアのオールド・ヴァイオリンの販売価格相場は、2018年現在1000万円〜です。クレモナ・スクールが全体的に高価で、ストラディヴァリ・ファミリーとグァルネリ・デル・ジェズを除けば、ニコロ・アマティの弟子世代までが3000万円〜1億円前後、ニコロ・アマティ―の孫弟子世代以降およびクレモナ以外のスクールは1000〜5000万円前後が一応の目安です。ただし例外として、カルロ・ベルゴンツィ(Carlo Bergonzi, 1683-1747)や ジョヴァンニ・バティスタ・グァダニーニなど、音量のある製作者の作品は特に高価で、近年ではオークションを通じた取り引きでさえ、1億円を超える場合があります。

  • 2005年のオークションで1720年製カルロ・ベルゴンツィが568,000ポンド(当時約1億1700万円)で落札されました。
  • 2013年のオークションで1778年製ジョヴァンニ・バティスタ・グァダニーニ“ドロシー・ディレイ(Dorothy DeLay)”が1,390,000ドル(当時約1億3700万円)で落札されました。

そして皆様ご存知の通り、アントニオ・ストラディヴァリグァルネリ・デル・ジェズ、チェロの場合は加えてセラフィン、ゴッフリラー、モンタニャーナは特別で、余程の問題がある個体を除けば販売価格相場は最低で億単位からの取り引きとなります。これに限らず良質なオールド・イタリアンについては、市場に出回ることが少なくなる一方であり、売り手市場の傾向を強めています。

  • 2008年現在、オークションでの落札価格のワールド・レコードは2006年、1707年製 アントニオ・ストラディヴァリ“ハンマー(Hammer)”の3,544,000ドル(当時約3億8870万円)です。
    ※2010年に更新。1697年製アントニオ・ストラディヴァリ“モリトー(Molitor)”が3,600,000ドル(当時約2億9320万円)で落札されました。※2011年に再更新。1721年製アントニオ・ストラディヴァリ“レディ・ブラント(Lady Blunt)”が9,808,000ポンド(当時約12億7500万円)で落札されました。
  • グァルネリ・デル・ジェズの現存数は少なく、アントニオ・ストラディヴァリの600挺前後に対して100挺未満と考えられているため、需給原理でさらに高額になる傾向があります。
  • 1716年製アントニオ・ストラディヴァリ“メサイア(Messiah)”、1743年製グァルネリ・デル・ジェズ“キャノン(Cannon)”など、価格の付けようのない個体も多数あります。
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