イタリアのオールド・ヴァイオリン - 解説と値段(価格相場)

Alessandro Gagliano
Napoli, 1734
ガリアーノ・ファミリーの頂点に相応しい最高傑作で、保存状態もほぼ完全な一挺。パターンは確かにアレッサンドロだが、通常より低めのミディアム・アーチと、潤沢に残るオリジナル・ニスがいずれも極めて美しく、クレモナ・スクールとの関連を想起したくなる。
Giuseppe Guarneri del Gesù "Camposelice"
Cremona, 1734
音質、保存状態、外観の迫力と、非の打ち所のないデル・ジェスの最高傑作のひとつ。真贋に疑いの余地のないデル・ジェスは希少だが、この一挺にその考慮はまったく不要である。ルッジェーロ・リッチ(Ruggiero Ricci)、チョーリャン・リン(Cho-Liang Lin)などに愛用された名器。

ヴァイオリン製作の始祖であるアンドレア・アマティ(Andrea Amati, 1505-1578)に始まり、 ロレンツォ・ストリオーニ(Lorenzo Storioni, 1751-1802)と ジョヴァンニ・バティスタ・チェルーティ(Giovanni Battista Ceruti, 1755-1817)の世代で一旦幕を閉じる、18世紀末頃までにイタリアで製作されたオールド・ヴァイオリン※用語(およびヴィオラ、チェロ)の系譜を以下に解説します。

  • イタリアのオールド・ヴァイオリンのことを慣習的にオールド・イタリアン(またはオールド・イタリー)と呼ぶことが多いです。

アンドレア・アマティの孫ニコロ・アマティ(Nicolò Amati, 1596-1684)が、グァルネリ・ファミリー※用語(ガルネリ, Guarneri)の始祖 アンドレア・グァルネリ(Andrea Guarneri, 1626-1698)やアントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari, 1644-1737)などを始めとして、素晴らしいマスター・メーカー※用語達を多数育てたことにより、 クレモナ(Cremona)におけるヴァイオリン製作は空前絶後の黄金期を迎えます。その後、各ファミリーや弟子達は独立して各地に移住し、それぞれの地にクレモナの製作技法を伝えます。やがて、地方ごとにスクール※用語 が形成され、イタリアのオールド・ヴァイオリンの多様性を彩るようになりました。

この時代の代表的なスクールは、アマティやストラディヴァリを筆頭とするクレモナ・スクール、ヴァイオリンのもうひとつの起源を担ったガスパロ・ベルトロッティ(ダ・サロ, Gasparo Bertolotti 'da Salò', 1542-1609)を筆頭とするブレシア・スクール(Brescia)、グランチーノ・ファミリー(Grancino)とテスト―レ・ファミリー(Testore)を中心とする ミラノ・スクール(Milano)、ガリアーノ・ファミリー(Gagliano)を中心とするナポリ・スクール(Napoli)、サント・セラフィン(Santo Seraphin, 1650-1728)、マッテオ・ゴッフリラー(ゴフリラー, Matteo Goffriller, 1670-1742)、ドメニコ・モンタニャーナ(モンタニアーナ, Domenico Montagnana, 1683-1760)というチェロの名工達が揃い踏みするヴェネツィア・スクール(Venezia)、ピエトロ・グァルネリ(Pietro Guarneri, 1655-1720)を筆頭とする マントヴァ・スクール(Mantova)などが挙げられます。

イタリアのオールド・ヴァイオリンの魅力は、その素晴らしい音色に尽きます。この時代のマスター・メーカー達にとっての基準は、アマティおよびストラディヴァリという完成し尽した楽器でしたから、メーカー自身の審美眼も自ずと厳しくなり、他と一線を画す質の高い音色はもちろん、外観も美しく製作されました。古さだけが価値を高めている訳ではないので、その他の名もなきただの古い楽器とは根本的な違いがあります。最良の楽器を求めると、誰もがほぼ例外なくオールド・イタリアンに行き着くことは、どうあっても否定できません。

イタリアのオールド・ヴァイオリンの価格帯は、2008年現在1000万円〜です。カルロ・ベルゴンツィ(Carlo Bergonzi, 1683-1747)や ジョヴァンニ・バティスタ・グァダニーニ(ガダニーニ, Giovanni Battista Guadagnini, 1711-1786)など、特に音量のあるメーカーは高価で、最近ではオークションを通じた取り引きでさえ、1億円を超える場合があります。

  • 2005年のオークションでカルロ・ベルゴンツィが568,000ポンド(当時約1億1700万円)で落札されています。

そして皆様ご存知の通り、アントニオ・ストラディヴァリバルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ(デル・ジェス, Bartolomeo Giuseppe Guarneri 'del Gesù', 1698-1744)、チェロの場合は加えてセラフィン、ゴッフリラー、モンタニャーナは特別で、余程の問題がある個体を除けば最低で億単位からの取り引きとなります。これに限らず良質なオールド・イタリアンについては、市場に出回ることが少なくなる一方であり、売り手市場の傾向を強めています。

  • 2008年現在、オークションでの落札価格のワールド・レコードは2006年、1707年製 アントニオ・ストラディヴァリ“ハンマー(Hammer)”の3,544,000ドル(当時約3億8870万円)です。
    ※2010年に更新。1697年製アントニオ・ストラディヴァリ“モリトー(Molitor)”が3,600,000ドル(当時約2億9320万円)で落札されました。※2011年に再更新。1721年製アントニオ・ストラディヴァリ“レディ・ブラント(Lady Blunt)”が9,808,000ポンド(当時約12億7500万円)で落札されました。
  • グァルネリ・デル・ジェスの現存数は少なく、アントニオ・ストラディヴァリの600挺前後に対して100挺未満と考えられているため、需給原理でさらに高額になる傾向があります。
  • 1716年製アントニオ・ストラディヴァリ“メサイア(Messiah)”、1743年製グァルネリ・デル・ジェス“キャノン(Cannon)”など、価格の付けようのない個体も多数あります。
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