フランスのオールド〜モダン・ヴァイオリン - 歴史・特徴・選び方・値段(販売価格相場)

フランスでは比較的古くからヴァイオリン(およびヴィオラ、チェロ)製作が行われており、黎明期にイタリア・クレモナから製作技法が伝わったとも言われています。以下、フランスにおいてオールド時代からモダン時代の間に製作されたマスター・ヴァイオリンについて解説します。

もくじ

フランスのオールド・ヴァイオリンの歴史

Claude Pierray
Claude Pierray
Paris, c.1720
オールド・フレンチの名器のひとつ。アウトライン、エフ孔、スクロールに至るまで、ニコロ・アマティの影響は明らかで、大変魅力的な楽器である。
Jean Baptiste Vuillaume
Jean Baptiste Vuillaume
Paris, 1857
ヴィヨームの最高傑作に数えられる楽器。1715年製ストラディヴァリ "Alard" のコピー(ただしオリジナルの裏板は2枚板)。ヴィヨーム・ナンバーは2204番で、裏板の内側に鉛筆で記入されている。
Paul Bailly
Paul Bailly
Paris, c.1880
スクールが被るが敢えてご紹介したいこのポール・バイイ。通常流通しているものにこのクオリティのものはまず存在しない。彼がヴィヨームの楽器を作っていたことを証明するヴァイオリンである。ヴィヨームに比肩するクオリティの楽器を遥かに安価に入手できる極めてお買い得な1挺。

フランスのヴァイオリン製作の歴史は、アマティ・ファミリー(Amati, イタリアのオールド・ヴァイオリン)に技法を学んだと考えられている始祖アンリ・メダール(またはムダル, Henri Medard, fl.1620-1630)を筆頭とする メダール・ファミリーによって、ナンシー(Nancy)の地で幕が開けられました。以降、18世紀末頃までのフランスのオールド・ヴァイオリンは、アマティ・ファミリーの影響を受けた作風が多いのが特徴で、パリ(Paris)とミルクール(Mirecourt)を中心に、クロード・ピエレー(Claude Pierray, fl.1700-1740)、アンドレア・カスタネリ(Andrea Castagneri, fl.1730-1762)などをはじめとして、優れたマスター・メーカーが存在していました。

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黄金期を迎えるフランスのモダン・ヴァイオリン

その後「フランスのストラディヴァリ」と賞賛される天才二コラ・リュポ(Nicolas Lupot, 1758-1824)の出現をきっかけとして、黄金期とも言うべき時代が幕を開けます。オールド時代からモダン時代の過渡期に活躍したリュポは、出生地オルレアン(Orleans)でしばらく製作を行った後にパリへ移住し、素晴らしいアントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari, 1644-1737)のコピーを製作するようになりました。モダン時代になり、後継者のガン・ペレ(Gand Père)ことシャルル・フランソワ・ガン(Charles François Gand, 1787-1845)とベルナルデル・ペレ(Bernardel Père)ことオーギュスト・セバスチャン・フィリップ・ベルナルデル(Auguste Sébastien Philippe Bernardel, 1798-1870)もまた、素晴らしいヴァイオリンを意欲的に製作し、その後も共同の工房を構えるなどしながら、ファミリーは発展しました。

そして、もう一人の天才 ジャン・バティスト・ヴィヨーム (Jean Baptiste Vuillaume, 1798-1875)は、一級のマスター・メーカーであったと同時に、有能な実業家でもありました。ディーラーとして数多くのアントニオ・ストラディヴァリやバルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ‘デル・ジェズ’(またはガルネリ, Bartolomeo Giuseppe Guarneri 'del Gesù', 1698-1744)を扱ってもいたことから、これらの名器を誰よりも知り尽くしており、その知識は楽器製作に存分に活かされました。そして自作のみならず、多数のマスター・メーカーにも製作を委託し、自らが理想とする楽器を約3000挺も世に送り出しました。ヴィヨームの委託を受けた製作者(またはメーカー)達が契約を終えると、一人の優れたマスター・メーカーに戻ったり、独自の量産ブランドを立ち上げたりと、それぞれに活躍しました。

ヴィヨームに関係するマスター・メーカー以外にも、ジャン・フランソワ・アルドリック(Jean François Aldric, 1765-1843)、シャルル・オーギュスタン・ミレモン(Charles Augustin Miremont, 1827-1887)、ピエール・ジョゼフ・エル(Pierre Joseph Hel, 1842-1902)など、独立した優秀な製作者は多数存在しており、19世紀はフレンチ・ヴァイオリンの黄金期と言えるでしょう。

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フレンチ・ヴァイオリンの特徴と選び方

フランスの楽器は平均クオリティが高く、安定した実力を期待できるのが優位な特徴です。18世紀末頃までにフランスで製作されたアマティ・モデルのオールド・ヴァイオリンは、ドイツのオールド・ヴァイオリンであるティロル・スクール(またはチロル, 独:Tirol)のヴァイオリンに比べると、アーチが適度でボディサイズも標準以上の場合が多く、音色の良さはもちろん、音量面でも実用性を備えている楽器が多いです。また、リュポ以降の楽器は総じて完成度が高く、最上級のものは一流演奏家をも満足させる能力があります。例えばヴィヨームはニコロ・パガニーニ(Niccolò Paganini, 1782-1840)やフリッツ・クライスラー(Fritz Kreisler, 1875-1962)のかなりのお気に入りの1挺であったことは有名な事実ですし、現代ではヒラリー・ハーン(Hilary Hahn)が録音デビュー後少なくとも10年以上は愛用しているため、CDでその音色を聴くこともできます。

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フレンチ・ヴァイオリンの販売価格相場

フランスのマスター・ヴァイオリンの販売価格相場は2018年現在100〜2500万円前後です。特に高い評価を受けているのはリュポとヴィヨームで、典型的なクオリティを備えた作品であれば1500〜2500万円前後です。なおヴィヨームのマッジーニ・モデル(Giovanni Paolo Maggini, c.1580-c.1630)や装飾楽器などは比較的リーズナブルで500万円前後から入手できる場合もあります。それ以外の特に評価の高い製作者、例えばフランソワ・ルイ・ピク(François Louis Pique, 1758-1822)、ガン・ペレ、ベルナルデル・ペレ、あるいはここでご紹介した最上級のオールド・ヴァイオリンなどは500〜1500万円前後、それ以外の製作者は100〜600万円前後が目安です。

  • ヴィヨームの販売価格相場は、オークションでの落札価格が2009年に初めて200,000ドルを突破して以降の上昇トレンドが著しく、近年は頻繁に200,000ドル以上の値を付けるようになりました。2018年現在の落札価格のワールドコードは2015年の163,200ポンド(当時約3050万円)です。ヴィヨームは本来の力量も高く、このトレンドが継続的なものとなる可能性は高いでしょう。
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