他ヨーロッパのマスター・ヴァイオリン

Johannes Theodorus Cuypers
The Hague, 1799
オランダのオールドからセミ・オールドの時代を代表する名器。ダッチ・ヴァイオリンは排他的な個性があり、それぞれに独特な魅力があるのが面白い。
William Voller
London, c.1900
クレモナ・スクールの名器を知り尽くしたコピーの名手による、危険水域に達する驚異的な作品。このレベルのイミテーションも存在することを知り、真摯に研究せずして鑑定を語るのはリスクが高い。

イタリア、ドイツ、フランス以外の国では、オランダ、イギリス、スペイン、デンマークなどに優れたマスター・ヴァイオリン※用語が存在します。これらの国では楽器の母体数が少なく、もし出会うことがあれば、ひとつの縁とお考えになってよろしいかと思います。

オランダでは17世紀という早い時期から素晴らしいオールド※用語・ヴァイオリンが製作されていました。 Hendrik Jacobs (1629-1699)、Cornelius Kleynman (w.1670-1699)などが代表で、いずれも細工などから男性的な雰囲気を感じる Amati風の楽器という表現が遠からずかと思います。希少ですが一級のものは本当に素晴らしく、音色も音量も申し分ないと言えます。18世紀になると Johannes Theodorus Cuypers (1724-1808)およびそのファミリー※用語が登場します。こちらは17世紀の楽器とはがらりと違う、Gagliano ファミリーに似た雰囲気の楽器です。アーチがフラットで大変パワフルな楽器です。

イギリスでは17世紀末頃からヴァイオリン製作が盛んになりましたが、18世紀末頃までは Tyrolスクール※用語または Bresciaスクールの影響を受けたと考えられる楽器が多く、残念ながら特別に優れたマスター・ヴァイオリンは存在しません。しかし18世紀末以降には、次第に Cremonaスクールの楽器を規範とするようになり、Old Forster こと William Forster (1739-1808)、Henry Lockey Hill (1774-1835)、Bernhard Fendt (1776-1832)、John Frederick Lott (1775-1853)などが優れた楽器を製作しました。いずれのメーカー※用語にも共通するのは、名器を忠実にコピーしようとする動機によって精度を高めた点です。

スペインでは18世紀頃から優れたマスター・ヴァイオリンが製作されています。代表的なメーカーはJuan Guillamí (1702-1769)や José Contreras (1710-1782)などで、イタリア的で魅力的な雰囲気のある、しかし独特の個性がある楽器です。諸説ありますが、この時代のスペインのメーカーとイタリアのメーカーの直接的な交流を示す証拠はありません。スペインで比較的高度なヴァイオリン製作を行うことができた理由は、ヴァイオリン製作が行われる以前からギター製作の土壌があったこと、メーカー達は王侯貴族が所有する Cremona の名器に修理等で触れる機会に恵まれたことなどが挙げられます。

デンマークでは Hjorthファミリーの始祖 Andreas Hansen Hjorth (1752-1834)によって18世紀末頃からヴァイオリン製作が行われていましたが、特に19世紀中頃以降になってから、J.B.Vuillaume の下で腕を磨いた Thomas Jacobsen (1810-1853)、その事業を引き継いだ Gulbrand Poulsen Enger (1822-1886)、そして Hjorthファミリーの3代目で Bernardel Père の薫陶を受けた Emil Theodor Hjorth (1840-1920)などが優れたマスター・ヴァイオリンを製作しました。こうした背景から想像できる通り、当時のフランスの製作技法に影響を受けており、Stradivariモデルと Guarneri del Gesùモデルを主とする端正な楽器が多いのが特徴です。

イタリア、ドイツ、フランス以外の国で製作されたマスター・ヴァイオリンの中心的な価格帯は2008年現在100〜1500万円前後です。イタリアやフランスのマスター・メーカー※用語ほどには作風・精度が安定していないメーカーも多いので、相場価格の判断には、個体ごとの出来の評価が重要となります。

ページの先頭に戻る