イタリアのモダン・ヴァイオリン※の歴史はジョヴァンニ・フランチェスコ・プレッセンダ(またはプレセンダ, Giovanni Francesco Pressenda, 1777-1854)によって幕を開けます。モダン※時代におけるイタリアのマスター・ヴァイオリン※(およびヴィオラ、チェロ)を慣習的にモダン・イタリアン(またはモダン・イタリーなど)と呼びますが、ここでは特にプレッセンダ以降から19世紀末頃までに製作されたものを前期モダン・イタリアンとして分類し解説します。(後期モダン・イタリアン)
この時代におけるプレッセンダに代表されるトリノ・スクール※(Torino)の楽器は、アントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari, 1644-1737)以来と言えるほどの高い実用性を実現した点において、特筆すべき存在です。
クレモナ(Cremona)黄金期の頂点を担ったストラディヴァリとバルトロメオ・ジュゼッペ・グァルネリ‘デル・ジェズ’(またはガルネリ, Bartolomeo Giuseppe Guarneri 'del Gesù', 1698-1744)以降のマスター・メーカー※達は、各々が最良と信じる製作スタイルを貫きましたが、総合的な実力でこの2大名器を凌駕することは叶いませんでした。これに対しプレッセンダは、2大名器の実力を再び見直し、それに負けない美しい音色と力強い音量をバランス良く発揮させる製作スタイルを確立しました。このことから、いずれ寿命を迎え失われていくであろうオールド・イタリアン(イタリアのオールド・ヴァイオリン)に代わり、次世代の最高の名器の座に就くのはプレッセンダであろうと言われています。
同様の思想は ジュゼッペ・アントニオ・ロッカ (Giuseppe Antonio Rocca, 1807-1865)など、これに続くマスター・メーカー達に引き継がれ、後期モダン・イタリアンへと繋がる源流のひとつになります。
その他の代表的なスクールとしては、エンリコ・チェルーティ(Enrico Ceruti, 1808-1883)からガエタノ・アントニアッツィ(Gaetano Antoniazzi, 1825-1897)へと繋がり、その後のミラノ(Milano)での隆盛の原点となった クレモナ・スクール、ガリアーノ・ファミリー※(Gagliano)の子孫やロレンツォ・ヴェンタパーネ(Lorenzo Ventapane, fl.1790-1843)らによる ナポリ・スクール(Napoli)、ラッファエレ・フィオリーニ(Raffaele Fiorini, 1828-1898)が再興の祖となった ボローニャ・スクール(Bologna)などがあります。なおトリノでは、アントニオ・グァダニーニ(またはガダニーニ, Antonio Guadagnini, 1831-1881)やフランチェスコ・グァダニーニ(Francesco Guadagnini, 1863-1948)など、グァダニーニ・ファミリーの子孫も製作を行っていました。
ページの先頭に戻るこの時代には、オールド・イタリアンの延長としての性格が強い楽器と、後期モダン・イタリアンの先駆けとしての性格が強い楽器が混在するのが特徴と言えます。前者についてはオールド・イタリアンとした方がイメージしやすい場合もあるかもしれません。
前者は、製作者(またはメーカー)の個性が存分に発揮された楽器で、製作者独特の音色を追い求めて製作されています。ナポリ・スクールはその典型と言えるでしょう。後者の典型はトリノ・スクールやボローニャ・スクールで、バランス重視で実用性に軸足を置いているのが特徴です。特にトリノ・スクールの楽器は、上質な音色でソロ用途にも申し分ない音量を備えているため、ソリストを含む多くのプロフェッショナル演奏家が、メインの楽器として使用するケースも多いです。
前期モダン・イタリアンの選び方を考える場合、製作年代だけではなく、このどちらの特徴を備えていることが重要なのか、頭の片隅に置いていただくとよろしいかもしれません。
ページの先頭に戻る前期モダン・イタリアンの販売価格相場は、2018年現在600〜4500万円前後です。中でも特に プレッセンダ や ロッカ を中心とする トリノ・スクールの作品は特に高く評価されており、1500〜4500万円前後、それ以外のスクールで600〜2500万円前後が目安です。オールド・イタリアンと同じく、音量のある製作者の作品ほど高く評価される傾向があります。
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