Carlo Bisiach
[Firenze; 1892-1968]
カルロ・ビジャッキ(ビジャック)

ヴァイオリン製作の伝統をミラノ(Milano)の地で華々しく復興させた、高名なるビジャッキ・ファミリーの一員であり、その中でも特にヴァイオリン製作の技術において傑出した才能を発揮したのが、このカルロ・ビジャッキである。幼少より父レアンドロ・ビジャッキ(Leandro Bisiach, 1864-1945)からヴァイオリン製作を学んだ後、1926年にフィレンツェ(Firenze)で独立して工房を構え、父や兄弟達とは一線を画す職人気質な姿勢でヴァイオリン製作に向き合った。

ビジャッキ・ファミリーの長であり、かつモダン・イタリアン・ヴァイオリンにおけるミラノ・スクールの始祖たる偉大な父レアンドロ・ビジャッキは、オールド・ヴァイオリンのディーリングも手掛け、その知見を活かしつつ多数の優秀な製作者と協力してヴァイオリン製作を行った。カルロを含む4人の息子たちは皆レアンドロの下で働き、ヴァイオリン製作も行ったが、兄アンドレア(Andrea Bisiach, 1890-1967)は鑑定家として高名になり、弟ジャコモ(Giacomo Bisiach, 1900-1995)とレアンドロ・ジュニア(Leandro Bisiach II, 1904-1982)は概ね父の路線を継承した。カルロはそれらとは対照的に、ヴァイオリン製作以外の商業的な分野で目立つ活動はせず、もっぱら自身の芸術を高めるよう努めた。その作品の評価は高く、1937年と1949年にクレモナ(Cremona)で、その他にパドヴァ(Padova)、ハーグ(Den Haag)で作品を出展し金賞を受賞するなどした。なおビジャッキ・ファミリーと関係の深かったイジーノ・ズデルチ(Igino Sderci, 1884-1983)とは、独立後も協力関係であったことが知られる。

カルロ・ビジャッキの作品に特徴的なのは、アントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari, 1644-1737)をはじめとするオールド・ヴァイオリンの名器を模範とし、特にその細部の造形まで徹底して緻密な美を追求する姿勢である。もちろん木材の選択も常に最上級にこだわり、かつそれが独特の選択基準であることから、木材だけである程度カルロ・ビジャッキの作品であることが推測できるほどである。ちなみにレアンドロ・ビジャッキ工房出身で同様の傾向があるメーカーとしてジュゼッペ・オルナーティ(Giuseppe Ornati, 1887-1965)、フェルディナンド・ガリンベルティ(Ferdinando Garimberti, 1894-1982)などが挙げられ、時代を問わず王道として高い評価を受けられる製作スタイルと言える。

ひとつ前のページに戻る