スターン(Isaac Stern 1920-2001)はストラディヴァリ1挺とグァルネリ・デル・ジェズ2挺を所有し、特にグァルネリ・デル・ジェズがお気に入りだったようです。それ以外にベルゴンツィ(Carlo Bergonzi, 1683-1747)、グァダニーニ(Giovanni Battista Guadagnini, 1711-1786)、ヴィヨーム(Jean-Baptiste Vuillaume, 1798-1875)なども一部は複数所有し、他にも新作レプリカのジグムントヴィッツ(Samuel Zygmuntowicz, 1956-)を所有し、同製作者の価格が高騰したことが近年話題となりました。
いずれも高名なヴァイオリニストであり、偉大なエチュードの編纂でもお馴染みのロード(Jacques Pierre Joseph Rode, 1774-1830)やクロイツェル(Rudolphe Kreutzer, 1766-1831)に所有された記録のあるストラディヴァリ。号名の由来は19世紀末から20世紀初頭の所有者であったクルゼ(Johann Kruse)氏、フォルムバウム(Oscar Vormbaum)氏です。
詳細は不明ですが、スターンは1947年頃までにこのストラディヴァリを売却しているようです。おそらく1737年製グァルネリ・デル・ジェズ“パネッテ”の入手に伴い手放したものと考えられます。その後さらにグァルネリ・デル・ジェズを追加して所有する一方で、ストラディヴァリを再び入手することはありませんでしたから、ストラディヴァリはスターンにとっては不可欠な相棒ではなかったのかもしれません。
1847年にヴィヨームからフランスのパネッテ子爵(Vicomte de Panette)に売却されたのが最古の記録で、号名の由来ともなっています。
スターンは最初のグァルネリ・デル・ジェズとしてこの楽器をWilliam Lewis & Sonから購入し、その後約50年間手元に置き続けました。さらに、この楽器をコピーしたc.1850年製のヴィヨームを所有し、この楽器を手放す1994年にはジグムントヴィッツにもこの楽器のレプリカを製作させていることから、かなり思い入れがあったことが窺えます。
1994年にスターンはこの楽器をコレクターのデイヴィッド・フルトン(David Fulton)氏に売却し、その後短期間五嶋みどり氏やヴァディム・レーピン(Vadim Repin)氏に貸与されたこともあったようです。2005年にはスイスのBSI(スイス・イタリア銀行)が購入し、ルノー・カピュソン(Renaud Capuçon, 1976-)氏に長期貸与されています(2018年現在)。
1875年までバルデスキ伯爵(Count Baldeschi)が所有していたのが最古の記録で、その後所有者の変遷を経て1896年、かの大ヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイ(Eugène-Auguste Ysaÿe, 1858-1931)の手に渡り、生涯愛用された名器です。
スターンは1965年に2挺目のグァルネリ・デル・ジェズとしてこの楽器をウーリッツァー商会(Rembert Wurlitzer Inc.)から購入しました。この楽器の購入に際し、既に所有していた1737年製の同じくグァルネリ・デル・ジェズ“パネッテ”を手放すことはなく、グァルネリ・デル・ジェズ自体かなりお気に入りであったのかもしれません。
この楽器は1998年には日本音楽財団の所有となり、2001年まではスターン本人に、2003〜2009年はピンカス・ズーカーマン(Pinchas Zukerman, 1948-)氏、2010年からはセルゲイ・ハチャトゥリアン(Sergey Khachatryan, 1985-)氏に長期貸与されています(2018年現在)。