ハイフェッツが使用したストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェズ

ハイフェッツ
画像:Wikipediaより引用

現代の名演奏家と言うとどうしてもハイフェッツ(Jascha Heifetz, 1901-1987)が思い浮かびます。好き嫌いはあれど、ハイフェッツを最高の名手の一人に挙げること自体に異を唱える声は恐らく多くはないと思います。ハイフェッツはストラディヴァリを2挺、グァルネリ・デル・ジェズを1挺所有したことが知られています。それ以外にはグァダニーニ(Giovanni Battista Guadagnini, 1711-1786)、ドブレソヴィッチ(Marco Dobretsovitch, 1891-1957)を所有していたと言われています。


c.1740年製 グァルネリ・デル・ジェズ "Heifetz, David"

Guarneri del Gesù c.1740 "Heifetz, David"
Guarneri del Gesù c.1740 "Heifetz, David"
画像:Peter Biddulph著 Giuseppe Guarneri del Gesùより引用
所有期間:1922-1987

このグァルネリ・デル・ジェズは、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を初演したことで有名なフェルディナンド・ダヴィッド(Ferdinand David, 1810-1873)が、1860年にヴィヨーム(Jean-Baptiste Vuillaume, 1798-1875)から購入し、生涯所有した記録が残ってます。1742年製と記載されたラベルはオリジナルではないと考えられており、スクロールはジュゼッペ・ガルネリ‘フィリウス・アンドレア’(Giuseppe Guarneri 'filius Andreae', 1666-1740)によるものと考えられています。

ハイフェッツは1922年にエミール・ハーマン(Emil Herrmann, 1888-1968)からこの楽器を購入し、生涯所有しました。そしてハイフェッツの逝去後にはサンフランシスコの博物館に寄贈されました。キャリアの殆どを共に過ごし、唯一手放すこともなかったことから、ハイフェッツが最も気に入った楽器だったのかもしれません。ヴィルトゥオジティの強烈なハイフェッツの演奏スタイルにはグァルネリ・デル・ジェズがよく似合います。

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1731年製 アントニオ・ストラディヴァリ "Heifetz, Piel"

Antonio Stradivari 1731 "Heifetz-Piel"
Antonio Stradivari 1731 "Heifetz-Piel"
画像:Herbert K. Goodkind著 Violin Iconography of Antonio Stradivariより引用
所有期間:1925-1950

ストラディヴァリの晩年期に製作されたこの楽器は、1876年までMerton氏が所有していたのが最古の記録で、号名の由来はハイフェッツの前の所有者のRudolph Piel氏です。ハイフェッツは、米国の市民権を取得した1925年にこの楽器を購入しました。24歳の若さながら当時既にスーパースターだった彼は、これでストラディヴァリとグァルネリ・デル・ジェズの2大名器を同時に所有することになります。1950年には1714年製ストラディヴァリ“ドルフィン”と入れ替える形でハイフェッツはこの楽器を手放します。

晩年期のストラディヴァリを特に愛した巨匠もいますが、ヴァイオリニストの王たるハイフェッツには黄金期のストラディヴァリが似合うのもまた事実です。ハイフェッツがストラディヴァリを入れ替えた時期が何故キャリアの中盤に差し掛かった1950年だったのかはわかりませんが、戦争の影響もあったのかもしれませんし、たまたま納得のできる楽器に出会ったのがその年だったのかもしれません。

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1714年製 アントニオ・ストラディヴァリ "Dolphin"

Antonio Stradivari 1714 "Dolphin"
Antonio Stradivari 1714 "Dolphin"
画像:Herbert K. Goodkind著 Violin Iconography of Antonio Stradivariより引用
所有期間:1950-1965

保存状態が極めて優れていることから名器と名高いストラディヴァリ。裏板の模様がイルカを想起させることから、19世紀に“ドルフィン”と名付けられました。1862年までヴィヨームが所有していたのが最古の記録です。

ハイフェッツは1950年にヒル商会(W. E. Hill & Sons, fl.1895-1986)からこの楽器を購入し、1965年にウーリッツァー商会(Rembert Wurlitzer Inc.)に売却しました。それまで使用していた晩年期のストラディヴァリと入れ替えで入手した非の打ち所のない黄金期のストラディヴァリですが、何故か引退前に手放しています。

この楽器は2000年以降日本音楽財団が所有しており、2018年現在は諏訪内晶子氏が演奏しています。

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