ドイツのオールド〜モダン・ヴァイオリン - 歴史・特徴・選び方・値段(販売価格相場)

このページでご説明する製作地域としてのドイツとは、現在のオーストリア、チェコを含む、ヴァイオリン製作における近接文化圏全体を指すこととします。何故なら、これらの地方ではヴァイオリン製作技法の起源が共通であり、伝達と交流を繰り返しながらヴァイオリン製作が発展した歴史的背景があるからです。

  • ドイツおよび周辺諸国の地名については現地の標準的な表記を基本としますが、一般的にわかりやすいよう例外としてオーストリア・ヴィーン(独:Wien)は日本語の「ウィーン」、チェコの西部・中部地方はラテン語の「ボヘミア(羅:Bohemia)」と表記します。
もくじ

ドイツにおけるヴァイオリン製作の歴史

Aegidius Klotz
Aegidius Klotz
Mittenwald, c.1780
クロッツに限らず、シュタイナー・モデルの楽器に共通する注意点は、この個体のように、出来る限りイタリアン・アーチに近いものを選択することである。アーチの良し悪しで結果はまったく異なる。
Jan Kulík
Jan Kulík
Prague, 1867
楽器の本質を見抜く眼力があれば、ディーラー、プレイヤー問わず、大いに魅力を感じるに相違ないボヘミア・スクールの傑作。様々な要因でこの手の楽器がマーケットに流通することは稀である。
Johann Georg Stauffer
Johann Georg Stauffer
Wien, 1833
非常にレアなウィーン・スクールのシュタウファーのヴァイオリン。ガイセンホーフの弟子でギター製作者としても高名。細工の作り込みに何とも言えない魅力があり非常に興味深い。音も非常に良い。

ドイツのオールド・ヴァイオリンの起源は、イタリアのブレシア(Brescia)から製作技法が伝わったと考えられているドイツのフュッセン(Füssen)と、同じくイタリアのクレモナ(Cremona)から製作技法が伝わったとも考えられているオーストリア・ティロル地方(またはチロル, 独:Tirol)のアプサム(Absam)の2都市にあります。特にアプサムでのヴァイオリン製作の始祖であるヤーコプ・シュタイナー(Jacob Stainer, 1617-1683)は特筆すべきマスター・メーカーで、かのモーツァルトによって愛用されるなど、18世紀末頃までは時にアントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari, 1644-1737)を凌駕する程の人気を誇りました。ですから、当時のドイツの製作者(またはメーカー)達の多くは好んで シュタイナー・モデルを製作しましたし、オールド・イタリアン(イタリアのオールド・ヴァイオリン)の中にも、ローマ・スクール(Roma)やフィレンッツェ・スクール(Firenze)など、シュタイナーの影響を受けたと考えられるものが存在します。

  • シュタイナーを筆頭とするいわゆるティロル・スクールの楽器は、演奏様式の変化などに伴い、19世紀以降は次第に クレモナ・スクールほどの評価は受けなくなりましたが、用途によっては素晴らしい性能を発揮できることに変わりはありません。
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ドイツの代表的なスクール

ドイツの代表的なスクールは、シュタイナー・モデルのオールド・ヴァイオリンの代表格であるクロッツ・ファミリー(Klotz)が活躍したミッテンヴァルト・スクール(Mittenwald)、19世紀中頃から高品質な量産的マスター・ヴァイオリンを製作したハインリッヒ・テオドア・ヘバーライン・ユニア(Heinrich Theodor Heberlein Jr., 1843-1910)、エルンスト・ハインリッヒ・ロート(Ernst Heinrich Roth, 1877-1948)を代表とするザクセン地方(独:Sachsen)のマルクノイキルヒェン・スクール(またはマルクノイキルヘン, Markneukirchen)、ヨハン・ゲオルグ・ヘルマー(Johann Georg Hellmer, 1687-1770)を筆頭とするファミリーや、カシュパル・ストルナド(Kašpar Strnad, 1752-1823)、ヤン・クリーク(Jan Kulík, 1800-1872)などを代表とするボヘミア・スクール(羅:Bohemia, 現在のチェコの西部・中部地方)、フュッセンより移住した マーティン・シュトース(Martin Stoss, 1778-1838)、ヨハン・バプティスト・シュヴァイツァー(Johann Baptist Schweitzer, 1790-1865)などを代表とする ウィーン・スクール(ヴィーン, 独:Wien)などがあります。

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ジャーマン・ヴァイオリンの特徴と選び方

ドイツでは群を抜いて多数の楽器が製作されたものの、その中でマスター・ヴァイオリンと呼べるクオリティの楽器は希少です。特にバラツキが大きいのは18世紀末頃まで製作が盛んだったシュタイナー・モデルのオールド・ヴァイオリン(いわゆるティロル・スクールのヴァイオリン)です。しかし、適切に製作された楽器については、経年によって大変上品で美しい音色となり、いわゆる「オールド・ヴァイオリンの練れた音」を、オールド・イタリアンより遥かに安価に手に入れられることが最大の魅力です。ただし、その音色は全く同質ではなく、オールド・イタリアンと比較してやや線が細く音量が小さめの楽器が多いです。一方、18世紀末以降主流になった クレモナ・スクールを規範としたモダン・ヴァイオリンの中には、ボヘミア・スクールやウィーン・スクールなどの一部の製作者にクオリティ・実用性ともに優れたものがあり、こうした楽器は後期モダン・イタリアン(イタリアの後期モダン・ヴァイオリン)の強力な対抗馬になります。

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ジャーマン・ヴァイオリンの販売価格相場

ドイツのマスター・ヴァイオリンの販売価格相場は2018年現在100〜2000万円前後です。最も評価が高い製作者はシュタイナーで、オールド・イタリアンに匹敵するような出来の良い個体は高値で取り引きされることもありますが、特筆するクオリティと言えないものは評価もそれなりで500〜2000万円前後です。それ以外の製作者は100〜500万円前後、量産的マスター・ヴァイオリンは100〜180万円前後です。なお前述の通りマスター・ヴァイオリンのクオリティに達しないものも大量にあり、そうした楽器はどれだけ古くても殆ど価値を持たないものも多いことに注意が必要です。

  • シュタイナーのオークション落札価格のワールド・レコードは2011年の205,250ポンド(当時約2740万円)ですが、当社の見解としては、これは例外的なものでシュタイナーの相場全体が上昇しているとは考えていません。
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