19世紀後半、ドイツとフランスを中心として近代的なマス・プロダクション(大量生産)によるヴァイオリン製作が始まり、安定した品質の弦楽器が安価に広く供給されるようになりました。これらのいわゆるコマーシャル・ヴァイオリンは、新作※はもちろん、アンティークの流通量も極めて豊富です。ただ、その品質にはかなりばらつきがありますので、ブランド名などにとらわれず個々の楽器の出来を見極めることが重要です。
コマーシャル・ヴァイオリンの代表的なメーカー※としては、ドイツ・ミッテンヴァルト(Mittenwald)でオールド※時代に遡る歴史を持ち19世紀末頃から存在感を放ったノイナー&ホルンシュタイナー(Neuner & Hornsteiner)、マルクノイキルヒェン(またはマルクノイキルヘン, Markneukirchen)ではエルンスト・ハインリッヒ・ロート(Ernst Heinrich Roth, fl.1902-)、フランス・ミルクール(Mirecourt)ではジェローム・ティボヴィーユ=ラミー(Jérôme Thibouville-Lamy, fl.1857-1968)やラベルト=アンベール・フレール(Laberte-Humbert Frères, fl.1876-1969)などが大きな成功を収めたほか、日本や中国でも早くからこの分野への挑戦が行われました。
ページの先頭に戻る主に入門用から中級者用のヴァイオリンとして、価格を抑えることを主眼にして製作されたものを、スチューデント・ヴァイオリンと呼ぶことがあります。その中でも低価格帯のヴァイオリンは、かつてはプレス※品が主流でしたが、近年では品質の優れた中国製の削り出し手工品がかなりの低価格で入手できるようになりました。
最初のヴァイオリンを選ぶなら、オーソドックスなモデル※(ストラディヴァリ・モデルなど)で製作された削り出し手工品で、適切なフィッティング※状態のヴァイオリンをお薦めします。この条件を満たすヴァイオリンは10万円前後からあり、その金額はフィッティング状態を適切に整えるコストと変わらないことから、最もお買い得な価格帯と言えますし、後から余計な出費もなく安心です。
新作・アンティークを問わず、上記の条件を満たさないプレス品などのヴァイオリンは、演奏用途としてはできるだけ避けた方が良いでしょう。アンティークの選び方として、性能面で新作と同等以上の実力があるかを冷静に見極めることを頭の片隅に置いても良いかと思います。
ページの先頭に戻るスチューデント・ヴァイオリンより高品質な、良質な材料を使用して手間を掛けた工程で製作されるヴァイオリンを、オーケストラでの演奏に使用できる品質のヴァイオリンという意味でオーケストラ・ヴァイオリンと呼ぶことがあります。メーカーによっては最上級モデルをこの辺りのランクまでにしている場合もあります。
アンティークのオーケストラ・ヴァイオリンは、価格面ではコンテンポラリー※の工房作品※のライバルとなります。アンティークのメリットは経年による音の反応の良さです。このランクになると簡単な選び方を考えることは難しく、全体的な品質や性能と価格のバランスを見極めなければなりません。
ページの先頭に戻るそして最も高品質なコマーシャル・ヴァイオリンを、コンサートで使用できる(ソロを演奏できる)品質のヴァイオリンという意味で、コンサート・ヴァイオリンと呼ぶことがあります。今も昔もメーカーのフラッグシップ・モデルが担うランクで、特に優れたコンサート・ヴァイオリンには、マスター・ヴァイオリン※に匹敵する品質を持つものも数多く存在します。
アンティークのコンサート・ヴァイオリンは、価格面ではコンテンポラリーのマスター・ヴァイオリンのライバルとなります。性能面で引けを取らず、100年程度経年して音の反応が良いヴァイオリンが、場合によってはマスター・ヴァイオリンより手頃な価格で入手できる場合もあります。
ページの先頭に戻るコマーシャル・ヴァイオリンは、100年前後経年したアンティークとなっても、同等のクオリティの新作と値段が極端には変わらないのが特徴です。この点は、マスター・ヴァイオリンとの違いのひとつです。コマーシャル・ヴァイオリンの販売価格相場は2018年現在スチューデント・ヴァイオリンは〜30万円前後、オーケストラ・ヴァイオリンは30〜90万円前後、コンサート・ヴァイオリンは60〜180万円前後が一応の目安です。
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